PET CFパーツの性能を高めるための焼鈍(アニーリング)方法

3Dプリントは、従来の製造技術で作られた部品よりも、低コストでカスタマイズ性の高い機能部品を作り出す無限の可能性を提供します。
しかし、求める性能に合わせて適切な素材を選ぶことが重要です。最近登場したUltiMaker PET CFは、カーボンファイバー複合素材であり、優れた強度・剛性・耐熱性を備えているため、高性能パーツの製作に最適です。
さらにPET CFは、UltiMaker初の「焼鈍(アニーリング)」によって性能をさらに高められる素材でもあります。

PET CFはアニーリング処理を前提に設計・検証されており、アニーリングとは、3Dプリント後の部品を熱処理することで構造強度や耐久性を向上させる後加工プロセスです。このガイドでは、PET CFパーツを焼鈍することによるメリットと、その具体的な方法を紹介します。

アニーリング(焼鈍)とは

アニーリングは、もともと金属加工やガラス製造で使われてきた熱処理プロセスで、内部応力の除去、延性(しなやかさ)の向上、素材特性の改善を目的としています。
基本的な原理は、専用のオーブンで素材を一定の温度まで加熱し、その後制御された速度で冷却するというものです。この工程を3Dプリント部品、特にPET CFやナイロンのような半結晶性材料に適用すると、引張強度・剛性・耐熱性などの機械的特性を向上させることができます。ただし、アニーリングの効果は素材によって異なるため、プロセスはやや複雑で、予期せぬ結果をもたらす可能性もあります。しかし、UltiMaker PET CFはアニーリングを前提に設計された素材であり、安定した性能向上が期待できます。

なぜUltiMaker PET CFを焼鈍(アニーリング)するのか?

PET CFは半結晶性構造を持つため、アニーリングに特に適した素材です。多くの3Dプリント用ポリマー(ABSやPETGなど)は非晶質構造(アモルファス)であり、分子鎖がランダムに入り組んだ状態、いわば「分子レベルのスパゲッティの山」のようになっています。
一方、結晶構造は分子鎖が規則正しく並んでおり、強度特性が高いのが特徴です。PETCFのような半結晶性素材は、ガラス転移点まで加熱することで結晶化が進み、分子鎖の配列が整い、結果としてより高い強度を得ることができます。

ポリマー鎖の結晶構造

  • 結晶性
  • 半結晶性
  • 非結晶性(アモルファス
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PET CFの適性と、開発段階で実施された広範なテストおよび検証により、この素材はアニール処理に最適です。この記事のガイドラインに従えば、より強く、より剛性が高く、より耐熱性のあるパーツを作ることができます。

また、PET CFの技術データシートには、標準状態とアニール後の両方の性能値が記載されているため、最終パーツの性能を事前に把握することが可能です。
これらの数値に基づくと、以下の性能向上が期待できます
・強度が約30%向上
・剛性が約10%向上
・耐熱温度が80°Cから180°Cへ上昇
これらの改善は非常に大きく、PET CFを高価な従来の製造技術で作られた金属やカーボンファイバー部品の代替として利用できる可能性を示しています。これらの大きな改善を実現する方法を説明する前に、アニール処理の欠点や、避けた方が良い場合についても触れておきましょう。

アニール処理のデメリット

まず、アニール処理を行うと、パーツがわずかに収縮します。これが、このプロセスが複雑だとされる主な理由のひとつです。さらに、加熱中にパーツが反ったり、たわんだりする可能性もあります。ただし、これらの問題には対処方法があり、次のセクションで詳しく説明します。
2つ目、そしてより重要なデメリットは、一部の機械的特性が低下することです。特に、衝撃耐性やZ方向(層間)接着強度が減少します。つまり、造形方向に対して垂直な圧力への耐性が弱まるということです。
Z軸方向の引張強度はおよそ15%低下する可能性があります。そのため最終パーツが力を受ける方向で弱くならないよう、造形時のパーツの向きを慎重に設計・設定することが非常に重要です。

PET CFのアニール(熱処理)方法

パーツのアニール処理を成功させるためには、すべての工程でアニールの要件を考慮する必要があります。
まずは、3Dモデルの選定または設計の段階から始まります。アニール処理は、薄い壁を持つモデルには適していません。最良の結果を得るためには、壁の厚みを4mm以上にし、一般的な部品設計のベストプラクティスに従うことをおすすめします。
次に、スライス設定を行う際には収縮の補正を行う必要があります。PET CFの場合、アニール中の収縮率は**XY方向で-0.3%、Z方向で-1.7%です。手動で拡大補正をしても構いませんが、UltiMaker Curaを使用すれば自動的に補正されます。専用の「アニール用インテントプロファイル」**を選択するだけで、最適な補正値が自動的に適用されます。
さらに、オーバーハングやブリッジがある場合にはサポート材を使用することが重要です。これらの部分はアニール時にたわみ(変形)が生じる可能性があるためです。サポート材は、同じPET CFで造形する通常サポート、またはUltiMaker Breakawayを使ったマルチマテリアルサポートのどちらでも構いません。
アニールプロファイルを選択したら、スライスして造形を開始します。
プリント完了後は、造形物をビルドプレートから取り外さないようにしてください。アニールはプリント時と同じ向きで行う必要があります。造形物をプレートに付けたままアニール炉に入れることで、正しい姿勢を保ち、サポート材もそのまま固定できます。フレックスプレートでもガラスプレートでもアニール炉で使用可能です。
最後に、アニール炉を稼働させます。アニール用に設計された炉であればどれでも使用可能ですが、Binder FP115のような高品質な業務用オーブンの使用を推奨します。

オーブンの設定方法

オーブンを稼働させる前に、アニール処理の時間を決める必要があります。これは、パーツの最も厚い部分の厚みを基準に計算します。【アニール時間(時間)= パーツの厚み(mm) ÷ 2】たとえばパーツの厚みが4 mmであれば、2時間アニール温度で処理する必要があります。
具体的な温度設定やプログラム方法については、使用しているアニール炉の取扱説明書を参照してください。以下は、厚み4mmのPET CFサンプルで検証済みのアニールプロファイル例です。アニール温度(Tc)は、求める特性に応じて調整可能です。
・高めの温度でアニールすると、熱耐性が向上しますが、剛性が低下し、収縮が大きくなります。
・最適な結果を得るためには、加熱および冷却を段階的(ランプ制御)に行うことを推奨します。
そのため、高温でアニールを行う場合は、処理時間も長くなる点に注意が必要です。
オブジェクトが冷却され、オーブンから取り出された時点でアニール処理は完了です。その後は、必要に応じて研磨(サンディング)・ポリッシング・コーティングなどの一般的な後処理を行うことができます。

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アニール処理の手順まとめ

以下は、パーツをアニールするための全工程を簡潔にまとめたものです
1. 適切なパーツを選定(薄い壁のデザインは避ける)
2. Curaで正しい向きに配置(Z軸方向の強度を考慮)
3. アニール用インテントプロファイルを選択
4. 必要に応じてサポートを使用
5. スライスしてプリント
6. パーツの厚みを測定し、アニール時間を算出
7. プリントした向きのままアニール炉へ入れる
8. 冷却後、オーブンから取り出し、必要に応じて後処理を実施
このガイドが、材料性能を最大限に引き出す助けになれば幸いです。アニール処理は一見複雑に感じるかもしれませんが、UltiMaker PET CFなら驚くほど簡単に行えます!